About Family at Crosswalk

Family at Crosswalk (2025)
RA4クロモジェニックプリント、
24K金箔加工

Currently being exhibited at Gallery f16

この写真は、歩道橋の上から撮影した横断歩道を渡る家族の姿を捉えたものです。

カメラはLeica M6、フィルムはKodak Portra 400を使用し、現像はラボで行いました。その後、私自身のスタジオで手作業でプリントしました。

大判プリントには特有の難しさがあります。

プリントのサイズが大きくなると、使用する薬品の量が増え、回転式タンクでの処理もより難しくなります。タンクの中でほんの少し薬品がはねるだけで、一部のエリアに薬品が触れる時間が長くなったりするのです。たった数秒の違いですが、温度の影響を受けた薬品は予想以上に活性化し、最終的なプリントの仕上がりに目に見える変化をもたらします。

タイマーが鳴り、プリントを取り出したとき、私は写真に現れた不完全さに気づきました。

ネガに付着したホコリの影響で、プリントに小さな跡が残ってしまったのです。撮影前にエアでしっかりとホコリを吹き飛ばしたはずなのに、それでも完全には防げませんでした。

その結果に落胆し、私はこのプリントを何ヶ月も放置しました。

時が経ち、私は人生の節目を迎えようとしていました。パートナーとの結婚を考えるようになり、婚約指輪について調べるなかで、ゴールド、プラチナ、ロジウムといった貴金属や、それらを扱う職人技に魅了されていきました。

そうした経験を通して、このプリントをただの失敗作として捨てるのではなく、その欠点を活かす方法を考え始めました。そこで日本の伝統技法「金継ぎ」に着想を得て、傷を隠すのではなく、金箔を施すことでその痕跡を際立たせることにしました。

こうして、かつては欠陥だと感じたものが、まったく新しい作品へと生まれ変わりました。

金箔は光の加減や見る角度によって表情を変え、静止した写真でありながら、時間や視点の変化とともに生きているように感じられます。『Family at Crosswalk』は「完璧なプリントとは何か?」という問いを投げかけ、むしろ予期せぬものの中にこそ美しさが宿ることを示唆しています。

Artist Statement

私は生活の多くの面で正確さを求めますが、芸術においては不完全さを受け入れる手法に惹かれます。フィルム写真や暗室でのプリントは本質的に予測不可能です。ホコリ、傷、薬品の不均一さ、わずかな違いが作品に与える影響は大きなもので、プリントごとに異なる表情を生み出します。

理想的な環境でさえ、完全にコントロールすることはできないのです。

デジタルカメラで撮った写真が簡単に完璧なクオリティを提供できる時代に、あえて不完全なプロセスを選ぶのは矛盾しているように思えるかもしれません。

しかし、この「コントロール」と「偶然」の間に生まれる緊張感こそが、私を惹きつけるのです。

撮影からプリントをに至るまで、すべては意図と偶然、精密さと不完全さのせめぎ合いです。

同じプリントを再現しようとしても、決して完全に同じものにはなりません。

プリントが持つ、唯一無二の存在感が、撮影からプリントに至るまでのプロセスを私にとって特別なものにしているのです。